
「顎がだるい」「口を開けるとカクカク鳴る」「こめかみや首まで重い」――こうした不調の背景にある代表例が顎関節症(TMD)です。 なかでも近年、見落とされやすい要因として注目されるのが TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)。 これは“食事や会話をしていないのに、上下の歯が触れている時間が長い”状態で、弱い力でも長時間続くことで顎・側頭部・首まわりの筋肉に持続的な負荷がかかります。
さらに重要なのは、顎の不調が「顎だけの問題」で終わらず、痛み・緊張・睡眠の質低下を通じて 自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスに影響し、悪循環を作りやすい点です。 本記事では、TCHを含む顎関節症に対して、整体や鍼灸がなぜ役立つのかを、科学的根拠を踏まえて分かりやすく解説します。
TCH(歯列接触癖)とは?顎関節症を長引かせる“日中のクセ”
歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)に比べ、TCHは日中に起こりやすいのが特徴です。 「気づくと上下の歯が触れている」「PC作業中に奥歯が当たっている」「スマホを見ながら軽く噛みしめている」など、 本人が自覚しづらいまま続き、咬筋・側頭筋・顎関節周囲の筋膜が常に“軽い収縮状態”になりやすいと考えられています。
その結果、顎周囲の筋疲労や血流低下、痛みの過敏化が起こり、口の開閉時痛、開口障害、こめかみ痛、首こり・肩こりを伴いやすくなります。 そして痛みや不快感はストレス反応を高め、交感神経優位が続くことで筋緊張がさらに強まる――この循環が、慢性化の大きな理由のひとつです。
顎関節症と自律神経:なぜ「顎の問題」が全身に波及するのか
痛みが続くと、身体は危険を回避しようとして交感神経を働かせやすくなります。交感神経が優位になると、 筋肉は緊張しやすく、呼吸は浅くなり、睡眠の質も下がりがちです。 顎関節症では顎周囲だけでなく、首・肩・胸郭(肋骨まわり)まで連動して硬くなりやすく、 「首こりが強い日に顎もつらい」「眠れないと顎が悪化する」といった関連が起こりやすくなります。
つまり、顎関節症(とくにTCHが絡むケース)は、局所の筋・関節だけでなく、自律神経の状態(緊張の持続)を含めて整えることが回復の近道になります。
鍼灸が顎関節症(TCH)に役立つ理由:研究で示されているポイント
顎関節症(TMD)に対する鍼治療は、複数のシステマティックレビューやランダム化比較試験(RCT)の蓄積があり、 痛みの軽減や開口量(口の開けやすさ)の改善に関して、短期的に有利な結果が報告されています。 ただし研究の質(バイアス、サンプル数、評価法のばらつき)には限界もあり、 「万能」ではなく、適切な評価と併用ケアが重要という立場が一般的です。
鍼灸が期待できる作用は大きく分けて次の3つです。
1)筋緊張の緩和と血流の改善
顎関節症の痛みは、関節そのものだけでなく、咬筋・側頭筋・内側翼突筋などの“筋由来”が関わることが少なくありません。 鍼刺激は局所の過緊張を緩め、循環を改善し、動かしたときの痛みやだるさを下げる方向に働くことが期待されます。 とくにTCHは弱い収縮が長く続くため、「硬いのに自覚が薄い」筋疲労がたまりやすく、筋へのアプローチが重要になります。
2)痛みの過敏化(中枢感作)へのブレーキ
痛みが長引くと、脳と神経系が「痛みに敏感な状態」になり、軽い刺激でもつらく感じることがあります。 鍼刺激は、痛みの調節系(下行性疼痛抑制系)に関与するとされ、痛みの“ボリューム”を下げる方向に働く可能性が示されています。 その結果、顎を動かす不安が減り、噛みしめの悪循環を断ちやすくなります。
3)自律神経(副交感神経)への調整作用
鍼灸は、心拍変動(HRV)などの指標を用いた研究で、副交感神経の働き(リラックス側)を高める可能性が示された報告があります。 顎関節症は「痛み→緊張→噛みしめ→痛み」のループに陥りやすいため、 リラックス反応を引き出し、呼吸や睡眠の質を整えることは、結果として顎の回復にもプラスに働きます。
整体が顎関節症(TCH)に役立つ理由:顎だけを見ない
TCHや顎関節症の背景には、姿勢(頭部前方位)、首肩の筋緊張、胸郭の硬さ、呼吸の浅さが関わることが多くあります。 整体では、顎そのものを無理に動かすのではなく、首・肩・背中・胸郭の連動を整え、 顎が緊張しにくい身体の使い方に戻すことを狙います。
例えば、首の深層筋や肩甲帯が過緊張だと、側頭部や咬筋群にも緊張が波及しやすくなります。 また猫背や巻き肩で胸が固いと呼吸が浅くなり、交感神経優位が続いて噛みしめが強まることがあります。 そのため「顎だけ」ではなく「全体の緊張の地図」を見て整えることが、慢性化の予防に大切です。
自宅でできるTCH対策:最重要は“気づいて離す”
施術と並行して効果が出やすいのが、TCHのセルフケアです。ポイントはシンプルで、 唇は閉じる、歯は離す、舌は上あご(いわゆる安静位)を意識すること。 「歯が当たっている」と気づいたら、力を抜いて離す。これを反復するだけでも、負荷の総量を減らせます。
- PC・スマホの画面に「歯を離す」とメモを貼る
- 1時間に1回、深呼吸(4秒吸って、6秒吐く)で顎と肩の力を抜く
- 頬杖を避ける/うつ伏せ寝を減らす
- ガムの噛みすぎ、硬い物の連続咀嚼を控える
受診が必要なサイン(見逃さないでください)
次のような場合は、歯科・口腔外科・医療機関での評価が優先です(必要に応じて当院でも連携をご提案します)。
- 口が急に開かなくなった/顎が外れた感じが強い
- 強い腫れ、発熱、外傷後の痛み
- しびれ、麻痺、急な聴覚症状など別の神経症状を伴う
- 夜間の激痛で眠れない状態が続く
杉本接骨鍼灸院の考え方:顎+自律神経+習慣まで一緒に整える
顎関節症(TCHを含む)は、「顎だけの問題」に見えて、実は自律神経の緊張と日中のクセが深く絡みます。 当院では、顎まわりの筋・頸肩の緊張、呼吸、睡眠、ストレス反応、そしてTCHの生活場面まで含めて評価し、 鍼灸と整体を組み合わせて“悪循環をほどく”ことを重視しています。
「歯科では異常なしと言われたけどつらい」「マウスピースだけでは変わらない」「首肩こりもセットで悪化する」 そんな方は、顎の負担を減らす身体づくりから一緒に進めていきましょう。
参考文献・参考情報
- Cho SH, et al. Acupuncture for Temporomandibular Disorders. (Systematic Review, 2011)
- Park EY, et al. Systematic review & meta-analysis of randomized trials on acupuncture in TMD. (2023)
- Di Francesco F, et al. Efficacy of acupuncture and laser acupuncture for TMD (RCTs review, 2024)
- Hamvas S, et al. Acupuncture and heart rate variability (Systematic review & meta-analysis, 2023)
- Sato F, et al. Teeth Contacting Habit (TCH) and TMD (2006)
院情報
杉本接骨鍼灸院
大阪府八尾市恩智中町1-35-1-103
072-943-6521

