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鍼灸治療 減薬・断薬

認知症の薬物治療:日本と海外の処方事情の違いと減薬に対する鍼灸師の視点からの対応策

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はじめに

認知症は高齢化社会の進展とともに世界的に増加している疾患群であり、その治療法の一つとして薬物療法が一般的に用いられています。

しかし、その処方方針や使用される薬剤には国によって大きな違いがあり、日本と海外(欧米諸国など)では処方の実態や考え方に相違が見られます。

本記事では、特に日本と海外の認知症薬物治療の処方事情の違いに焦点をあて、海外で使用禁止や制限がかかっている薬剤の例も挙げながら、その背景を比較します。

さらに、減薬・断薬を目指す場合の注意点や、東洋医学・鍼灸師の立場からの補助的な対応策についても詳しく解説します。

1. 認知症に処方される薬剤の基本的な違い

認知症の薬物治療では主に以下のような薬が用いられています。

  • コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなど)
  • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
  • 抗精神病薬(認知症の周辺症状に対して)
  • 抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬

日本の処方事情

日本では認知症に対して、特に軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に対してはドネペジル(商品名アリセプト)が非常に多く処方されてきました。また、周辺症状(BPSD: 行動・心理症状)に対しては抗精神病薬の処方も比較的多い傾向にあります。

ただし、抗精神病薬の長期使用による副作用や死亡リスクの指摘が増える中、最近は減薬を推奨する動きもありますが、現状ではまだ多用される傾向があります。

海外(特に欧米諸国)の処方事情

欧米諸国では認知症に対する抗精神病薬の使用に厳しい制限がかかっています。たとえばアメリカ食品医薬品局(FDA)は2005年に、高齢者の認知症に関連した精神病症状に対する抗精神病薬使用で死亡リスクが高まる警告(ブラックボックス警告)を出しています。

また、欧州諸国では認知症の薬物療法においてコリンエステラーゼ阻害薬の効果に懐疑的な見解もあり、薬剤の使用に慎重な傾向が強いです。さらに、日本で認可されている薬剤が海外では承認されていない場合もあります。

2. 日本で普通に処方されている薬が海外で禁止・制限されている例

抗精神病薬の使用

  • 日本
    認知症の周辺症状に対して、リスペリドンやオランザピンなどの抗精神病薬が多用されています。
  • 海外
    米FDAは認知症患者の抗精神病薬使用に対して死亡リスクの警告を発表。欧州各国でも認知症における抗精神病薬の使用は制限的で、非薬物療法を優先させる指針が一般的です。

理由:抗精神病薬は錐体外路症状や認知機能の悪化、転倒リスクの増加、致死的な副作用を引き起こしやすいため。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬

  • 日本
    長期的にベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬が処方されることが多く、高齢者の認知症にも使われています。
  • 海外
    欧米では長期使用は推奨されず、認知症の悪化や転倒、依存のリスクから使用が厳しく制限されています。

理由:高齢者での副作用リスクが高く、認知機能低下や事故につながるため。

以上のように、認知症患者に対して「抗精神病薬」や「ベンゾジアゼピン系薬剤」の使用は日本では比較的自由に処方される一方、海外では重大な副作用リスクを理由に厳しく規制されているのが大きな違いです。

3. 処方の違いの背景と理由

3-1. 医療文化・医療制度の違い

  • 日本は薬物療法に依存しやすい医療文化があり、精神科の薬物療法が多用される傾向にあります。
  • 欧米ではリスクマネジメントの観点から非薬物療法(環境調整、心理療法、ケアの工夫)を優先し、薬物は最後の手段とされています。

3-2. 規制・ガイドラインの違い

  • 日本では抗精神病薬やベンゾジアゼピン系薬剤に関する規制が比較的緩やかで、医師の裁量が広いです。
  • 米FDAや欧州医薬品庁(EMA)は厳しい警告や制限をかけ、製薬企業も安全性情報の更新を義務付けられています。

3-3. エビデンスの評価基準の差

  • 欧米では大規模な臨床試験の結果に基づき、副作用リスクと利益を厳密に比較評価する傾向が強い。
  • 日本では一部の薬剤の長期的な安全性・有効性について十分な検証がされていないケースもあります。

4. 減薬の注意点と対応策

4-1. 認知症患者の減薬の難しさ

認知症患者は加齢による代謝低下や多剤併用(ポリファーマシー)が多いため、減薬・断薬は慎重を要します。急激な減薬は認知機能の悪化や行動異常の再燃を招くことがあり、医療・介護スタッフの協力も必須です。

4-2. 減薬時の主な注意点

  • 医師との連携を必ず取ること
  • 徐々に減量する(漸減療法)
  • 患者の状態を細かく観察する
  • 非薬物療法の強化と並行する
  • 家族・介護者への教育と協力

5. 鍼灸師・東洋医学の視点からの対応策

5-1. 鍼灸の役割

  • 副作用の緩和
    抗精神病薬やベンゾジアゼピン系薬の副作用(ふらつき、筋肉のこわばり、不眠、便秘など)を緩和し、生活の質を高める補助的役割が期待できます。
  • 不安や興奮の緩和
    東洋医学的に「心肝」や「腎」のバランスを整えることで、不安や落ち着きのなさを和らげ、行動異常の軽減を目指します。
  • 睡眠改善
    不眠症状に対してツボ刺激やお灸により自然な眠りを促すことが可能です。

5-2. 漢方薬との併用

  • 認知機能改善や精神症状の緩和を目指した漢方薬(例:加味帰脾湯、抑肝散加陳皮半夏など)が減薬を支えることもあります。

5-3. 東洋医学的診断の重要性

  • 体質や症状の根本原因を見極めて、全身の調和を図ることが、薬の減量・断薬を安全に進める上で大切です。

6. 実際の減薬の流れと鍼灸の活用例

  1. 初期評価と相談
    医師と連携し、患者の全身状態・認知機能・精神症状を評価。
  2. 減薬計画の策定
    漸減スケジュールを作成。
  3. 鍼灸治療の開始
    副作用の緩和や精神安定のために週1~2回の治療を並行。
  4. 症状のモニタリング
    認知症状の悪化や副作用の出現を定期的に確認。
  5. 家族へのケア指導
    薬の減量に伴う変化への理解とサポート法を伝える。

7. まとめ

日本と海外の認知症に対する薬物処方の違いは、医療文化や規制、エビデンス評価の違いによるところが大きく、日本では抗精神病薬やベンゾジアゼピン系薬剤が比較的多く処方されている一方、海外ではその使用が制限されています。

減薬・断薬を進める際は慎重な計画と観察が必須であり、鍼灸師としては東洋医学の観点から副作用緩和や精神症状の安定、自然な睡眠促進を目指した治療を通じて、患者さんのQOL向上と安全な減薬に寄与できます。

医療・介護チームと連携し、患者と家族の負担を減らしながら、薬物に頼らない穏やかな認知症ケアを目指しましょう。

参考文献・引用

  1. FDA Drug Safety Communication: "Antipsychotic Drugs' Risk in Older Adults with Dementia-Related Psychosis" (2005)
    https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-drug-safety-communication-antipsychotic-drugs-risk-older-adults-dementia-related-psychosis
  2. Kales HC, Gitlin LN, Lyketsos CG. "Management of behavioral and psychological symptoms in people with dementia." Lancet Neurol. 2015 Apr;14(4): 388-403.
  3. 日本認知症学会「認知症の薬物療法の実際」2020年
    https://www.jpn-dementia.jp/modules/publication/index.php?content_id=25
  4. 松浦一成, 他. 「認知症患者の抗精神病薬使用に関する現状と課題」老年精神医学雑誌, 2018;29(1):7-16.
  5. 川崎明美. 「東洋医学における認知症治療の可能性」鍼灸学報, 2019;69(2):137-144.

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  • この記事を書いた人

杉本敏男

大阪八尾市でダイエットと腰痛を栄養で解消する整体院を経営しています。身体だけでなく精神的な痛みや疲れも栄養を変えれば大抵は改善してしまいます。もしあなたがどこへ行ってもよくならない、痛みを抱えておられるのであれば当院へ一度、お越しください。