
「手汗でスマホが滑る」「緊張すると脇汗が止まらない」「顔汗で化粧が崩れる」――こうした多汗は、汗腺そのものだけでなく自律神経(交感神経)の働きが大きく関係します。今回は、多汗症(58)に対して、整体・鍼灸がどのように役立ち得るのかを、研究報告を踏まえてわかりやすくまとめます。
多汗症とは?まず「原発性」と「続発性」を分けて考える
多汗症は大きく原発性(原因が特定しにくい)と続発性(病気や薬剤などが背景)に分けられます。特に続発性は、甲状腺機能亢進症、感染症、低血糖、薬剤などの影響が隠れていることがあるため、急に始まった全身の発汗や、体重減少・動悸・震えなどを伴う場合は医療機関での評価が大切です。
一方で、脇・手のひら・足の裏・顔などの局所の多汗は原発性であることが多く、生活の質(QOL)を大きく下げます。一般的な治療選択肢としては、制汗外用、イオントフォレーシス、抗コリン薬、ボツリヌス毒素注射などが紹介されています。
汗が増えるメカニズム:交感神経(ただし汗はアセチルコリン)
汗は体温調節のための自然な反応ですが、「緊張」「不安」「プレッシャー」といったストレス刺激で汗が増えるのは、主に交感神経が優位になるためです。多汗症は、このストレス反応が強く出やすい(あるいは切り替えが苦手)状態とも言えます。
重要なのは、汗腺の指令は交感神経でも神経伝達物質はアセチルコリンである点です。つまり、多汗症は「交感神経×汗腺の過敏さ」が関係しやすく、ここにアプローチできるかが鍵になります。
鍼灸が多汗に役立ち得る科学的ポイント
1)ストレス誘発の発汗が「鍼刺激で低下」した報告
精神的ストレスで起こる発汗に対して、鍼刺激が発汗反応を弱める可能性を示した研究報告があります。ストレスで汗が増えるタイプは、「自律神経の過反応」が中心になりやすいため、この領域は鍼灸の得意分野になり得ます。
2)皮膚交感神経活動(SSNA)など、自律神経指標への影響
鍼刺激が、皮膚交感神経活動などの自律神経活動の指標に影響し得ることを検討した研究もあります。多汗症の背景に「交感神経の過緊張」がある場合、鍼灸で過緊張を落とし、スイッチを切り替えやすくすることが狙いになります。
3)臨床報告:多汗(polyhidrosis)に対する鍼治療の成績
多汗(自発性の多汗)に対して鍼治療と薬物治療を比較した報告や、原発性多汗に対する症例報告・ケースシリーズもあり、少数例ながら改善が述べられています。大規模で厳密な試験はまだ十分とは言えませんが、「汗=汗腺だけ」ではなく「自律神経の調律」を介した可能性が議論されています。
4)“汗そのもの”だけでなく、不安・緊張・睡眠の土台を整える
多汗症では「汗が気になる→緊張する→さらに汗が出る」という悪循環が起こりがちです。鍼灸は、痛みや筋緊張だけでなく、リラックス反応を引き出しやすいことが知られており、汗のトリガーになりやすい不安・緊張・睡眠といった土台を整えることで、結果的に発汗の波を小さくできるケースがあります。
整体が多汗に役立ち得るポイント:呼吸・首肩・姿勢と自律神経
整体では、胸郭(肋骨)や横隔膜の動き、首肩の過緊張、猫背などを整え、呼吸の浅さを改善しやすくします。呼吸が浅いと交感神経優位になりやすく、緊張型の発汗が増える人もいます。
当院では、強い刺激で無理に「交感神経を抑える」のではなく、呼吸・筋緊張・睡眠の条件を整えて「勝手に落ち着く状態」を作る方針で進めます。
当院での考え方:目標は「汗ゼロ」ではなく“日常がラクになる”こと
- 汗の量だけでなく、困りごと(仕事・対人・睡眠・メンタル)を一緒に整理
- 生活背景(緊張場面、食事、カフェイン、睡眠)からトリガーを特定
- 鍼灸:自律神経の過緊張に配慮した配穴・刺激量で調整
- 整体:呼吸と首肩〜胸郭の緊張を落として切り替えやすい体へ
多汗症は「体質だから仕方ない」で終わらせず、自律神経の扱い方を身につけることで、日常のストレス耐性が上がり、汗の波が小さくなる可能性があります。お困りの方は一度ご相談ください。
参考文献・根拠(一般向け)
- 精神的ストレス誘発発汗に対する鍼刺激の抑制に関する研究(PubMed掲載)
- 鍼刺激が皮膚交感神経活動(SSNA)などに与える影響の検討(ScienceDirect掲載)
- 自発性多汗(polyhidrosis)に対する鍼治療と薬物治療の比較報告(PubMed掲載)
- 多汗症の一般的治療選択肢(家庭医療・診療ガイド等)
