起立性調節障害(OD)は、特に思春期の子供たちに多く見られる自律神経の機能不全に起因する症状です。
この障害は、起床困難やめまい、動悸など多岐にわたる症状を引き起こし、学校への遅刻や欠席、不登校の原因にもなり得ます。
本記事では、薬物療法で十分な効果が得られなかった14歳の女性に対する鍼灸治療の効果を報告し、その治療プロセスと結果について詳述します。
鍼灸治療の背景と目的
起立性調節障害(OD)は、自律神経系の調節機能が低下することにより、立ちくらみやめまい、起床困難などの症状を引き起こします。
薬物療法が一般的な治療法ですが、すべての患者に効果があるわけではありません。鍼灸治療は、自律神経機能の調整を目指し、OD症状の改善を図る補完的治療法として注目されています。
本稿では、14歳の女性患者に対する鍼灸治療の経過と効果を紹介します。
症例の詳細と治療プロセス
患者のプロフィールと主訴
患者は14歳の女性中学生で、起床困難、入眠困難を主訴としていました。
昨年1月頃から食欲不振や体重減少が見られ、その後、午前中の体調不良が続き、登校が困難になりました。
近医でODと診断され、薬物療法を開始しましたが十分な効果が得られなかったため、2月から鍼灸治療を開始しました。
鍼灸治療の方法
治療は、1~2週間に1回の頻度で計16回行われました。
1~5回目の診療では、頭頂部、四肢、腹部への置鍼術と手指・足趾爪甲角部への棒灸を行いました。
6回目以降は、頭頂部と背部への鍼通電療法を追加しました。
治療の効果を評価するために、2回目以降は毎日のOD症状と登校状況、3回目以降は起床時血圧の記録を依頼しました。
1. 置鍼術(ちしんじゅつ)
- 対象部位: 頭頂部(百会穴、左右の承光穴、通天穴相当部)、四肢(外関穴、内関穴、合谷穴、足三里穴、三陰交穴、太衝穴相当部)、腹部(中脘穴、左右の天枢穴相当部)
- 使用鍼: 16号 40mm
- 刺鍼深度: 5~15mm
- 治療時間: 10分
2. 棒灸(ぼうきゅう)
- 対象部位: 手指・足趾爪甲角部
- 方法: 熱感を生じる程度まで棒灸を行う
3. 鍼通電療法(しんつうでんりょうほう)
- 対象部位: 頭頂部、脊柱近傍の圧痛点(肺兪穴、心兪穴、督兪穴、肝兪穴、脾兪穴相当部)
- 使用鍼: 20号 40mm
- 刺鍼深度: 5~15mm
- 周波数: 50Hz 間欠波
- 治療時間: 10分
使用する主要なツボ
- 百会(ひゃくえ)
- 承光(しょうこう)
- 通天(つうてん)
- 外関(がいかん)
- 内関(ないかん)
- 合谷(ごうこく)
- 足三里(あしさんり)
- 三陰交(さんいんこう)
- 太衝(たいしょう)
- 中脘(ちゅうかん)
- 天枢(てんすう)
- 肺兪(はいゆ)
- 心兪(しんゆ)
- 督兪(とくゆ)
- 肝兪(かんゆ)
- 脾兪(ひゆ)
通院頻度と期間
通院頻度:
- 1~2週間に1回のペースで治療を受けることが推奨されます。
治療期間:
- 全16回の治療を1クールとし、症状の改善が見られるまで継続します。
経過と評価方法
治療の効果を評価するために、以下の方法を取り入れます。
- 毎日のOD症状と登校状況の記録
- 起床時血圧の記録
- 自律神経機能検査(起立負荷試験など)
治療結果と考察
OD症状の改善
治療開始から4回目までは、OD症状の出現率が高いままでしたが、治療が進むにつれて症状の出現率が減少しました。
13~16回目の診療期間中には、起床困難や腹痛、食欲不振などの症状がほぼなくなったとのこと。
登校状況の改善
治療初期には頻繁に遅刻や欠席が見られましたが、治療が進むにつれて全日登校の日数が増加しました。
特に13~16回目の診療期間では、遅刻や欠席がほぼなくなりました。
自律神経機能の改善
鍼灸治療の継続により、起床時の血圧変動が安定し、起立直後の血圧低下が減少しました。
また、医療機関での24時間ホルター心電図の結果からも自律神経機能の改善が確認されました。
治療開始前には副交感神経優位だった自律神経活動が、治療後には交感神経活動が正常に戻りました。
まとめ
鍼灸治療は、薬物療法で十分な効果が得られなかった起立性調節障害の症状を改善する有効な補完療法となり得ることが示されました。本症例では、OD症状の出現率の減少、登校状況の改善、自律神経機能の正常化が確認されました。
今後、さらなる症例集積や臨床研究を通じて、鍼灸治療の有効性をより明確にすることが期待されます。
鍼灸治療は、安全で効果的な補完療法として、起立性調節障害に悩む多くの患者にとって有益な選択肢となるでしょう。