認知機能低下予防と食べ物との関係とは?
超高齢社会において、認知症と診断される方は年々増加傾向にあります。
日本だけでも、2025年には約700万人とも予想されています。
これは、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症ということになります。
認知症は今のところ、特効のある治療法が確立されていません。
なので、世界でも認知症は深刻な病気で治療や予防の研究がおこなわれています。
認知機能の低下予防には食事が大切
毎日の食事が「認知症」につながる。
そもそも、好きなものを好きなだけ飲み食いしていれば、不健康になることは明らか。
毎日の食事や摂取した栄養がどのように脳や認知症と関連しているのか?
現段階でわかっていることを理解して、快適な老後を目指しましょう。
血液脳関門
脳には関所のような役割を果たす「血液脳関門」という場所があります。
脳内に不必要な物質が入らないようになっています。
血液脳関門を通った栄養素が、脳の代謝に関わり、脳や神経伝達物質の材料として利用されます。
脳の働きと食べものは関係ある!
脳と腸の関係「脳腸相関」
脳の状態と腸から吸収される栄養素との関係が徐々に明らかになっている。
腸の免疫細胞や迷走神経などを通じて、腸から”直接”脳に影響を与えている。
毎日の食事と脳は、密接な関係がある。
脳の健康にとって、栄養はとても重要。
認知症予防のカギとなるDHAは、食品からの摂取が必要
脳は、主に脂質とアミノ酸から構成されている。
とくに脂肪酸の中で多いのは「ドコサヘキサエン酸(DHA)」です。
さまざまな研究から、DHAが脳の構造や機能を支えていることが判明しています。
DHAの血中濃度と認知機能にも相関関係があります。
出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/ep/topics/18.html
DHAの血中濃度が高いと、認知機能が下がりにくいという結果が明らかになりました。
DHAは体内で作ることがほぼできないので、食事から摂取する必要があります。
認知症予防に効果がある栄養素
DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)やα-リノレン酸などがあります。
DHA さんまやさば、まぐろなど
EPA さばやいわし、にしんなど
α-リノレン酸 アマニ油やエゴマ油など
に多く含まれています。
食事からEPAやDHAを摂取する場合
イワシには100gあたりに1400mgのEPAと1200mgのDHA
サンマには100gあたりに800mgのEPAと1300mgのDHA
サバには100gあたりに1200mgのEPAと1700mgのDHA
つまり毎日これらの魚を100gずつくらい食べれば、効果は期待できます。
脳には脂質が多いので酸化されやすい
抗酸化作用のある栄養素
ビタミンA
にんじんやほうれん草など緑黄色野菜、鶏レバー、豚レバー、バターなど
ビタミンC
ブロッコリーやパプリカ、いちご、さつまいもなど
ビタミンB群
豚肉、バナナ、赤身魚、鶏レバーなどに多い
ビタミンE
大豆・大豆製品やナッツ類、アボカド、オリーブ油などに
これらの抗酸化作用が豊富な食品を取り入れることで、認知症予防効果が見込まれます。
食事と認知機能 牛乳・乳製品
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターの60歳以上の女性を対象にした研究では下図のような結果がでています。
出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
図に示すように、60歳以上の女性では、穀類摂取量が多いほど、認知機能低下リスクが大きくなりました。
牛乳・乳製品の摂取量が多いほど、認知機能低下リスクが小さくなりました。
さらに、詳しく解析すると、うどんなどの麺類のように副菜(おかず)が少ない穀類中心のような食事が多いと、認知機能低下のリスクが上昇していることがわかりました。
牛乳・乳製品を摂取しても、穀類の摂取量が多いと、認知機能低下リスクが大きくなっていました。このことは、穀類のみの食生活が、認知機能の低下リスクが高くなるということを示しています。
牛乳が苦手でも、穀類のみの食事より、副菜などを充実させた方が認知機能の維持には良いという結果になりました。
また牛乳・乳製品以外の食品群では、男女ともに、穀類摂取量が多いほど、認知機能低下リスクが大きくなりました。
豆類と認知機能との関連
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが行った、60歳以上の方のデータを用いた研究では、以下の図に示すような結果になりました。
女性において豆類や総イソフラボン摂取量が多くなると、10年後の認知機能低下リスクは低下しました。一方、男性では、豆類の摂取量と認知機能との関連はありませんでした。
これらの結果から、特に女性において、豆類を取り入れた食生活は、認知機能を維持する上で重要であることがわかりました。
豆を使った食品には、煮豆だけでなく、納豆、豆腐、がんもどき、油揚げ、豆乳、味噌、あんこなどがあり、さまざまな味や風味を楽しむことができます。
日々の食生活の中に、豆のお料理を一品取り入れることで、認知機能低下を予防できます。
食品摂取の多様性と認知機能
60歳以上の方を対象に、食品摂取の多様性と認知機能との関連(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター)についての結果は、図に示しています。
食品摂取の多様性が最も低い(品数が少ない)グループに比べ、最も高い(品数が豊富)グループでは、認知機能低下のしやすさの指標が44%低下していました。
つまり、いろいろな食品を食べている人は、認知機能が低下しにくい傾向にあるという結果でした。
食の多様性が高い=栄養バランスのとれた食事を摂れていることが、認知症予防の効果が期待できるということ。
大規模な研究結果
日本国内では、このほかにも食事のデータと健康、とくに認知症あるいは認知機能についての研究が行われています。
久山町研究における認知症の研究
認知症の調査は、1985年に65歳以上の住民を対象として開始。
認知症の有病率と日常生活動作で、その後1992年、1998年、2005年、2012年にも同様の調査が実施され、受診率はいずれも92%以上。
これらの調査により、認知症に関して以下のことがわかっています。
- アルツハイマー型認知症の急増
- 60歳以上の高齢者は、2人に1人が認知症になる
- 糖尿病の人は認知症になりやすい
- 50年で認知症の要因となる糖尿病が増加
- 高血圧の人は脳血管性認知症になりやすい
- 喫煙者はアルツハイマー型、脳血管型認知症になりやすい
- 運動は認知症の予防に良い
久山町研究では、「豆類や大豆製品、野菜・海藻類、乳類や乳製品を多く含み、米類は控えめな食事が、認知症発症予防にいい」と報告されています。
大崎研究
「大崎研究」は、宮城県大崎保健所管内1市13町に居住する40~79歳の国民健康保険加入者を対象とした、1994年に開始されたコホート研究です。
東北大学が生活習慣に関する調査と、死亡やがんなどの罹患の状況に加えて、医療費などを追跡して調査しました。
「大崎コホート研究」では、「魚類や野菜類、きのこ類、海藻類、漬物、大豆製品、緑茶の摂取を含む日本型の食事が認知症発症予防にいい」と報告されています。
久山町研究、大崎研究、これら2つの研究結果から、いろいろな食材を用いた栄養バランスのいい食事が認知症発症予防に効果が高いと言えそうです。
認知機能と地中海食
欧米では、地中海食が健康増進に効果的ということで注目されています。
地中海食
「季節折々の野菜・豆類、果物・種実類を多く摂取し、オリーブ油を主たる油脂として使い、魚介類や乳製品、鶏肉は適量を、赤み肉は少なめに、適量の赤ワインを摂取する食事」
いろいろな食材を取り入れた食事という点では、日本の場合と同じと言えそうです。
まとめ
最も食の多様性をあげると、認知機能低下のリスクは下がります。
「今すぐにできること」
いつもの食事に穀物以外の1品をプラスする。
DHA・EPA豊富な魚を食べる。
とくに女性は豆類を摂取する。
運動をする。
人と会話をする。