「身体は疲れているのに、布団に入ると頭だけが動き続けるんです」
今回ご紹介するのは、寝ようとすると考え事が次々に浮かび、なかなか眠れないというお悩みで来院された50代女性の症例です。
日中は仕事と家事で忙しく、夜には身体も疲れています。
ところが布団に入ると、翌日の予定や仕事のこと、家族のことなどが次々と頭に浮かびます。
「早く寝ないと明日がしんどい」
そう思えば思うほど眠れなくなり、時計を何度も確認する状態になっていました。
このような場合、「自律神経が乱れていますね」の一言だけで終わらせるのではなく、何時に布団へ入るのか、眠くなってから入っているのか、夜まで仕事やスマートフォンを続けていないか、身体にどの程度緊張が残っているのかまで分けて確認することが大切です。
今回は、この方の初回来院時に何を確認し、どのように施術を組み立てたのかをご紹介します。
「眠れない」だけでは原因は分かりません
不眠にはいくつかのタイプがあります。
布団に入ってもなかなか眠れない「入眠困難」、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」、予定より早く目覚めてしまう「早朝覚醒」などです。
今回の女性で特に強かったのは、寝つくまでに時間がかかる入眠困難でした。
カウンセリングでは、単に「何時間眠れていますか?」と聞くだけではなく、布団へ入る時間、実際に眠るまでの時間、起床時間、昼寝、休日の睡眠、カフェイン、飲酒などを確認しました。
すると、夕方以降も仕事の連絡を確認することがあり、布団へ入る直前までスマートフォンを見る日も多いことが分かりました。
さらに、「眠れなかったら明日の仕事に影響する」という不安も強くなっていました。
つまり、単純に睡眠時間が短いというより、布団へ入ってからも脳と身体が休息へ切り替わりにくい状態が続いていました。
初回に確認した身体の状態
身体を確認すると、首から肩、背中にかけて強い緊張がありました。
特に肩をすくめるような力が入りやすく、本人には力を入れている自覚がほとんどありませんでした。
呼吸も胸の上部を中心にした浅い呼吸になりやすく、息を吐いても肩周辺の力が十分に抜けません。
さらに、お腹にも力が入りやすい状態でした。
ここで重要なのは、首や肩が硬いから不眠になった、と単純に判断しないことです。
眠れない状態が続けば身体も緊張しやすくなりますし、日中の仕事や精神的な負担によって首や肩が硬くなっている可能性もあります。
どちらか一つを原因と決めつけるのではなく、「眠ろうとしても身体の緊張が十分に下がらない状態が重なっている」と考えました。
なぜ「早く寝よう」とすると余計に眠れなくなることがある?
眠れない日が続くと、多くの方が早めに布団へ入ろうとします。
例えば普段23時に眠っている方が、「今日はしっかり寝よう」と21時30分から布団へ入るようなケースです。
しかし、まだ十分な眠気が来ていなければ、布団の中で起きている時間が長くなります。
そこで、「まだ眠れない」「あと6時間しかない」と時計を見る。
さらに焦って眠れなくなる。
これを繰り返すと、布団が「眠る場所」ではなく、「眠れるか心配する場所」になってしまうことがあります。
慢性的な不眠に対しては、睡眠薬だけでなく、認知行動療法の考え方も用いられています。
その中でも、眠くなってから布団へ入ることや、長時間眠れないまま布団で過ごさないことなどが重要になります。
今回行った鍼灸施術
今回の施術では、「不眠だからこのツボ」という決め方はしていません。
まず首から肩、背中の緊張を確認し、呼吸をしたときに身体がどのように動くのかを見ました。
そのうえで、首肩周辺の過剰な緊張を落とすための鍼と、手足のツボを組み合わせました。
使用したツボの一つが内関です。
内関は手首から少し肘側にあるツボで、心身の緊張や吐き気などに用いられることがあります。
もう一つ確認したのが神門です。
神門は手首にあるツボで、不眠や落ち着かない状態などに使われる代表的なツボの一つです。
さらに首や後頭部周辺についても、その日の緊張状態を確認しながら刺激量を調整しました。
強い刺激を入れることが目的ではありません。
施術中の呼吸や身体の力の抜け方を確認しながら、刺激量を決めました。
整体では呼吸と背中の動きを確認
鍼だけでなく、背中や胸郭の動きも確認しました。
この方は、息を吸うと胸の上側が大きく動く一方で、下部の肋骨や背中側の動きが小さくなっていました。
そこで整体では、強く揉みほぐすのではなく、胸郭と背中が呼吸に合わせて動きやすくなるよう調整しました。
施術後にもう一度深呼吸をしてもらうと、最初より肩を持ち上げずに呼吸しやすくなっていました。
「呼吸が深くなったから不眠が治る」という意味ではありません。
ただ、寝ようとしているのに肩をすくめ、身体へ力が入ったままでは、休息へ移りにくくなります。
この方の場合は、身体側の緊張を下げやすい状態を作ることも施術の目的の一つにしました。
不眠を長引かせないために確認したこと
施術と同時に、普段の睡眠習慣も整理しました。
特に確認したのは次の点です。
- 眠くないのに早く布団へ入っていないか
- 布団の中で時計を何度も確認していないか
- 寝る直前まで仕事をしていないか
- 夕方以降にコーヒーや濃いお茶を飲んでいないか
- 休日だけ大幅に起床時間が遅くなっていないか
- 昼寝が長くなっていないか
この方には、まず「早く寝なければ」と必要以上に布団へ入る時間を早めないようお伝えしました。
また、時計を見る回数を減らし、眠る直前まで仕事の連絡を確認する習慣も見直してもらいました。
不眠の場合、何かをたくさん追加するより、眠りを邪魔している行動を一つ減らす方が実践しやすいことがあります。
自宅で行ったセルフケア
セルフケア1 眠くなってから布団へ入る
「23時になったから寝る」ではなく、眠気が出てから布団へ入るようにします。
眠れない状態で長時間布団にいる習慣を減らし、布団と睡眠を結びつけていきます。
慢性的な不眠がある方では、睡眠時間の調整について専門的な指導が必要なこともあるため、極端に睡眠時間を削る方法を自己判断で行わないでください。
セルフケア2 時計を何度も見ない
夜中に時計を見ると、「もう1時」「あと5時間しか眠れない」と計算を始めてしまう方がいます。
それによって眠ることへの焦りが強くなります。
スマートフォンを枕元から離し、時計もすぐ目に入らない位置へ置いてください。
セルフケア3 頭の中の予定を紙へ出す
布団へ入ってから翌日の予定を考えてしまう方は、寝る少し前に紙へ書き出します。
「明日やること」
「忘れたくないこと」
「今考えても答えが出ないこと」
を頭の中だけで繰り返さず、一度外へ出しておきます。
目的は考え事を完全になくすことではありません。寝る時間になってから、何度も同じ予定を確認する必要を減らすことです。
施術後に確認した変化
初回施術後、この方が最初に話されたのは「身体の力が抜けた感じがする」という変化でした。
その日の睡眠だけで施術効果を判断せず、その後も寝つくまでの時間、夜中に目が覚める回数、朝の状態などを確認しました。
さらに、首肩や背中の緊張だけでなく、寝る前の過ごし方についても継続して見直しました。
睡眠は毎日変動します。
「昨日は眠れた、今日は眠れなかった」だけで判断するのではなく、数週間単位で傾向を見ることが大切です。
当院で大切にしている考え方
杉本接骨鍼灸院では、不眠の方すべてを「自律神経の乱れ」でまとめません。
寝つけないのか、途中で起きるのか、朝早く目が覚めるのか。
何時に寝て、何時に起きているのか。
カフェイン、昼寝、仕事、スマートフォン、身体の緊張など、今回の不眠に関係していそうなものを一つずつ確認します。
そのうえで、鍼灸では首肩や背中の緊張、呼吸、脈の状態なども確認し、施術前後で身体がどう変わったかを見ていきます。
不眠が長期間続いている場合、強いいびきや無呼吸がある場合、脚がむずむずして眠れない場合、強い気分の落ち込みがある場合などは、睡眠障害を専門とする医療機関や内科、精神科・心療内科などでの評価が必要になることもあります。
「眠れない=自律神経」ではなく、何が睡眠を邪魔しているのかを分けて考える。
ここを大切にしています。
まとめ
今回の50代女性は、身体は疲れているのに、布団へ入ると考え事が止まらず眠れないという状態でした。
確認すると、寝る直前まで仕事やスマートフォンを続ける習慣、眠れないことへの焦り、首肩から背中にかけての強い緊張などが重なっていました。
そこで、鍼灸と整体で身体の緊張や呼吸の状態を確認しながら施術し、同時に布団へ入るタイミングや時計を見る習慣なども見直しました。
「頭が休まらない」と感じている方は、まず眠くないのに早く布団へ入っていないか、寝る直前まで頭を働かせていないか、時計を何度も確認していないかをチェックしてみてください。
それでも、「何が原因で眠れないのか分からない」「身体は疲れているのに頭だけ休まらない」という方は、公式LINEからお気軽にご相談ください。
睡眠習慣の問題なのか、身体の緊張が強いのか、それ以外の確認が必要なのか。カウンセリングをしながら一緒に整理していきましょう。
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