「鍼って、刺すだけでどうして身体が変わるんですか?」
鍼を初めて受ける方から、よく聞かれる疑問です。
肩こりや腰痛の場所へ細い鍼を刺す。
見た目だけでは、それだけに見えるかもしれません。
しかし、身体の中では鍼を刺した場所だけでなく、末梢神経、脊髄、脳などを通じて複数の反応が起こることが分かってきています。
「鍼をすると血流が良くなるからです」と一言で説明されることもありますが、それだけではありません。
鍼の作用を理解するときは、刺した場所で起こる反応、神経への刺激、脊髄や脳での痛みの調整を分けて考えると分かりやすくなります。
今回は、鍼を身体へ刺したとき、何が起きているのかを現在の研究をもとに解説します。
鍼を刺した場所では何が起こる?
鍼が皮膚や筋肉へ入ると、身体にとっては非常に小さな物理的刺激になります。
その刺激を、皮膚や筋肉、結合組織にある感覚受容器や神経が受け取ります。
鍼を刺した部分では、局所の血管反応や細胞の反応、アデノシンなどの物質が関係する可能性が研究されています。
また、鍼を少し動かすと、筋膜などの結合組織にも機械的な刺激が伝わります。
つまり、鍼は筋肉に穴を開けているだけではありません。
非常に細い鍼による刺激を身体が感知し、そこから生理的な反応が始まると考える方が分かりやすいでしょう。
2024年のレビューでも、鍼の局所作用として、局所の血管拡張、免疫細胞の反応、アデノシンの放出などが整理されています。
鍼の刺激は神経を通って伝わる
鍼を刺したとき、「ズーンと響く」「重たい感じがする」「少し離れた場所まで感覚が広がる」と感じる方がいます。
これは単に鍼が筋肉へ当たっているだけではなく、皮膚や筋肉に存在する感覚神経が刺激を受けていることも関係します。
その刺激は末梢神経から脊髄へ伝わり、さらに脳へ情報が送られます。
脳は、その刺激を受け取って終わりではありません。
逆に脳から脊髄へ信号を送り、痛みの情報が伝わりすぎないよう調整する仕組みがあります。これを「下降性疼痛抑制系」と呼びます。
簡単に言えば、身体にはもともと痛みを弱める仕組みが備わっています。
鍼刺激によって、この痛みを調整する神経回路へ影響が起こることが研究されています。
鍼によって痛みの感じ方が変わる理由
痛みは、痛い場所だけで作られているわけではありません。
例えば腰に刺激が加わると、その情報は神経を通って脊髄へ入り、さらに脳へ伝わります。そこで初めて「腰が痛い」と認識します。
慢性的な痛みでは、筋肉や関節の状態だけでなく、神経系が痛みに敏感になっていることもあります。
鍼についての研究では、刺激によって脊髄や脳での痛みの処理に変化が起こる可能性が示されています。
さらに、身体の中にもともと存在する内因性オピオイドと呼ばれる物質も関係すると考えられています。
エンドルフィンなどが代表的なもので、身体自身が痛みを調整するために使っている物質です。
近年のレビューでは、鍼による鎮痛作用には、末梢での反応だけでなく、脊髄や脳での痛み信号の抑制、内因性オピオイドなどの生化学的な変化が関わると整理されています。
鍼は脳にも影響する?
鍼刺激を受けているときの脳活動を、MRIなどを使って調べた研究も行われています。
こうした研究では、痛みの感覚そのものを処理する領域だけでなく、痛みに対する感情や注意に関係する脳領域にも変化が見られることがあります。
これは、慢性的な痛みを考えるうえで重要です。
同じ身体への刺激でも、睡眠不足や強いストレス、不安が続いていると、痛みを強く感じることがあります。
逆に、身体が痛みを抑える方向へ働きやすくなると、同じ場所でも感じ方が変わる場合があります。
鍼は「痛い筋肉を直接ほぐしている」だけではなく、痛みを処理している神経系にも働きかけている可能性があるということです。
鍼をすると血流は良くなる?
鍼について、「血流を良くする施術です」と説明されることがあります。
鍼刺激によって局所の血管反応が起こり、血流が変化することは研究されています。
しかし、鍼の作用をすべて「血流改善」だけで説明するのは十分ではありません。
刺した場所での反応、感覚神経への刺激、脊髄での処理、脳での痛みの調整などが同時に関係すると考えられています。
そのため杉本接骨鍼灸院でも、「血流が悪いから鍼をする」という説明だけでは終わりません。
どの筋肉が緊張しているのか、どの動きで症状が出るのか、神経症状はないかまで確認して、刺激する場所を決めます。
鍼をした後に身体が軽く感じるのはなぜ?
施術後に、
「肩が軽くなった」
「首が動かしやすい」
「身体の力が抜けた感じがする」
と感じる方がいます。
これも一つの反応だけで説明できるものではありません。
筋肉の緊張が変わること、痛みの感じ方が変わること、神経系への刺激、自律神経系への影響などが複合的に関わっている可能性があります。
鍼の作用については多くの研究がありますが、まだ完全に解明されたわけではありません。
米国のNCCIHも、鍼が神経系や局所組織へ影響することは示されている一方、作用機序のすべてが解明されているわけではないとしています。
鍼はどんな症状にも同じように刺すわけではありません
鍼は「痛いところに何本も刺せばいい」というものではありません。
肩こりでも、肩を触るだけでは原因は分かりません。
首を動かしたときに症状が出るのか、腕を動かしたときなのか、神経のしびれがあるのか、背中や肩甲骨が動いているのかを確認します。
腰痛でも同じです。腰だけでなく、股関節や骨盤、脚の動きなども確認します。
さらに、身体の緊張状態や睡眠なども確認しながら、刺激する場所や鍼の深さ、刺激量を決めます。
同じ「肩こり」という症状でも、毎回同じ場所へ同じ本数を刺すわけではありません。
鍼を受けるときに知っておきたいこと
セルフチェック1 強い刺激ほど効くわけではない
鍼は「痛いほど効く」「深く刺すほど効く」というものではありません。
身体の状態や刺激する場所によって、浅い刺激を使う場合もあれば、筋肉まで刺激する場合もあります。
鍼が初めての方や刺激に敏感な方には、刺激量を抑えて行うこともできます。
セルフチェック2 症状によっては病院での検査が先
強いしびれや筋力低下、突然の激しい頭痛、発熱、胸痛、急激に悪化する痛みなどがある場合は、鍼を受ける前に医療機関での確認が必要になることがあります。
鍼だけですべての症状を判断するわけではありません。
セルフチェック3 鍼を受けた後の変化を確認する
鍼をした後は、単に「痛みがゼロになったか」だけを見る必要はありません。
首がどこまで動くようになったか、立ち上がりやすくなったか、歩いたときの痛みがどう変わったかなど、実際の動きも確認します。
施術前後で身体の反応を見ることで、次回どこを確認するべきか判断しやすくなります。
当院で大切にしている考え方
杉本接骨鍼灸院では、鍼を「何となくツボへ刺すもの」とは考えていません。
まずカウンセリングで、どのような症状なのか、どの動作で出るのか、いつから続いているのかを確認します。
そのうえで、筋肉や関節の動き、神経症状、姿勢、呼吸などを確認します。
必要に応じて脈の状態も確認し、施術前と施術後で身体がどう反応したのかを見ていきます。
鍼では、症状が出ている場所だけでなく、身体の反応を見ながら刺激する場所を選びます。
鍼を刺した場所で起こる局所的な反応と、神経を介した全身的な反応の両方を考えながら施術を組み立てています。
だからこそ、肩こりだから肩、腰痛だから腰、と単純に決めるのではなく、何を見て、何があったから、どこへ鍼をするのかを大切にしています。
まとめ
鍼を刺したとき、身体の中では一つだけの反応が起きているわけではありません。
まず、刺した場所の皮膚、筋肉、結合組織が刺激を受けます。
その刺激が感覚神経を通って脊髄や脳へ伝わり、身体にもともと備わっている痛みを調整する仕組みに影響すると考えられています。
さらに、局所の血管反応やアデノシン、内因性オピオイドなど、さまざまな仕組みが研究されています。
つまり鍼は、単に「筋肉を刺して血流を良くしている」だけではありません。
局所の組織、神経、脊髄、脳まで含めて身体が刺激に反応しているというのが、現在考えられている鍼の仕組みです。
「自分の症状には、なぜ鍼をするのだろう?」
「どこへ鍼をするのだろう?」
と気になる方は、公式LINEからお気軽にご相談ください。身体の状態を確認しながら、鍼をする理由も含めてご説明します。
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